
こんにちは白金ちなです。
以前、『配偶者控除は2017年に廃止?「主婦の働き損」になる年収を調べてみた!』という記事を投稿したら、大変な反響がありました。やはり、女性の働き方問題は多くの方が関心を寄せるトピックなのですね。
さて、2017年の配偶者控除廃止に向けて動いていた政府ですが、さまざまな大人の事情から断念したようです。そのかわり、控除が受けられる配偶者の所得の上限を少しだけ引き上げるというマイナーチェンジに落ち着きました。
それでも、年収が103万円に収まるように働いていた女性なら、新しい上限まで労働時間を増やそうとするのではないかと思いきや、「ほとんど効果は期待できない」という意見が大半です。 その理由は企業が社員に支給している「家族手当」です。なぜ家族手当が女性の就労を阻む原因となるのでしょうか。今回は家族手当について調べてみました。
配偶者控除の制度は変わらず上限だけ変更
まず、2017年度の税制大綱で配偶者控除の何が変わったのかみていきましょう。
変わったのは配偶者“特別”控除
2016年12月8日に2017年度の税制改正がまとまったのですが、実はここで見直されたのは「配偶者控除」ではなく「配偶者特別控除」です。
配偶者特別控除とは、配偶者の年収が103万を超えたら急に税金が上がるのはしのびないということで、所得に応じて控除が段階的に受けられるよう作られた仕組みです。配偶者控除は様々な制度と連動しているため手を付けるのが難しく、現行の配偶者特別控除に手を加えることにしたようです。
配偶者特別控除では配偶者の所得が5万円上がるごとに控除が少しずつ減らされるしくみになっているのですが、その基準が見直されました。
※やたらと出てくる「控除」という用語についてはここでも詳しく書きましたが、要するに「税金の割引」だと思ってください。配偶者控除の場合、配偶者(多くは妻)の年収が一定以下なら、世帯主(多くは夫)の所得税が割引になる、という意味です。
配偶者の年収の上限はこう変わる
今回の見直しで、満額の控除が受けられる上限だった配偶者の年収が103万円から150万円に、控除が完全にゼロになる上限が141万円から201万円に変更されました。以前、「配偶者控除103万円の壁の向こうは、配偶者特別控除という階段になっている」と表現したのですが、その階段が少し長く伸びたイメージです。

- 配偶者控除がフルで適用: 103万円 → 150万円
- 段階的に受けられる: 103万円~141万円 → 150万円~201万円
- 配偶者控除が完全になくなる: 141万円 → 201万円
これまでは年収を103万円以内におさえようとしていた人は、150万円まで働いても変わらず控除を受けられるようになります。それ合わせて女性の就労時間は増えるはずですが、上限が引き上げられても女性の働く時間が変わるとは考えにくいといいます。なぜでしょうか。
女性が働く時間を減らす原因に「家族手当」
女性が労働時間を一定以下に抑えようとすることを「就業調整」といいます。就業調整を促すのは、配偶者控除だけではありません。「家族手当」もその一つです。
家族手当にも収入制限がある
家族手当とは、配偶者や子供のいる社員に対して基本給とは別に支給される手当のことです。公的な控除や補助とは全く別の、企業が独自に設定する福利厚生のような位置づけですが、日本では多くの企業が家族手当を支給しています。

上の図のように、家族手当制度がある事業所は全体の76.5%を占めます。家族手当制度のある企業のうち90%以上(全体の69.1%)に配偶者手当があり、配偶者手当がない(おそらく子供手当のみ)ケースはわずかしかありません。
配偶者手当は配偶者が扶養家族であることが前提に作られているので、収入制限があるのが一般的です。妻に十分な収入がある社員に手当は必要ない、ということですね。つまり、配偶者がたくさん働いて給料が上がってしまうと、配偶者手当がもらえなくなるのです。
では、収入がいくら以上になったら家族手当が受けられなくなるのでしょうか?

家族手当がある企業のうち、配偶者の収入制限を設けている事業者は85%にも及びます。しかも、収入制限の金額は配偶者控除の103万円に合わせているところが大半です。次いで多いのは健康保険の被扶養者になるための基準である130万円です。
配偶者控除は150万円まで働いても受けられるように改正されましたが、収入がそこまで増えてしまうと、節税できたところで今度は配偶者手当をもらい損ねてしまいます。もらえなくなった配偶者手当が節税額を上回る場合、「働き損」の可能性もあります。
家族手当がなくなるといくら損する!?
では、家族手当はどのくらいの金額もらえるものなのでしょうか?家族手当の平均支給額を調べてみました。厚生労働省の「賃金事情等総合調査(2015年)」によると、企業が社員に支給する配偶者手当と子供手当の平均支給額は、以下のようになっています。
| 支給対象家族 | 配偶者 | 第1子 | 第2子 | 第3子 |
| 平均支給月額 | 1万7,400円 | 9,800円 | 9,200円 | 9,200円 |
| 年額換算 | 20万8,800円 | 11万7,600円 | 11万400円 | 11万400円 |

月額1万7,400円は大きいですね・・・!
年間なら1万7,400円×12か月=20万8,800円になりますよ!
これがなくなるのは誰だってイヤですね・・・!
配偶者控除の節税額は、夫が年収500万円で妻の年収が上限以下なら、年間7万6,000円になります。仕事を増やして7万円得して20万円損するなら、働かない方がマシ、という判断は非常に合理的といえます。
配偶者控除の見直しをしても、家族手当がある限り女性の就労調整はなくならないとされるのはこのためです。
ちなみに、子供手当よりも配偶者手当の金額が大きい理由は、「子供は増えるけど配偶者は増えない」からなのだそうです。なるほど。想定以上に手当がふくらんだら会社も困りますものね。
家族手当の収入制限を見直す動きは鈍い
配偶者控除制度の改正に合わせて、企業が配偶者手当の収入制限を見直す流れにはなっていないのでしょうか?配偶者手当の収入制限が配偶者控除に合わせて引き上げられれば、就労時間が長くなっても家族手当が受けられます。
配偶者の家族手当を見直す予定なし | 94.1% |
配偶者の家族手当を見直す予定あり | 5.9% |


なんと、ほとんどの企業で家族手当の仕組みを見直す予定はないようです。あるとしても収入制限の引き上げを検討しているのはわずかで、手当額を増やすか減らすかが主な論点のようです。
気になるのが「支給対象から配偶者を除外」という回答。家族手当に配偶者は含まず、子供だけに支給することを検討している企業が多いということです。回答で最多なのが「手当額の減額」。家族手当を現時点で見直す予定の企業は少数派ですが、変わるとするとどちらかというと縮小する方に動く可能性が高いことが分かります。
長期的には配偶者手当は減少の流れ
家族手当は、扶養家族を持つ社員の生活を支援するために始められました。しかし共働き世帯の増加や成果主義賃金の導入が広がったことで、配偶者手当を含む家族手当は廃止または削減の傾向にあります。1999年には90.3%あった普及率は、2015年には76.5%まで低下しました。
今後もこの流れは進んでいくと思われます。

しかし、家族手当の廃止は家計を直撃する問題なので、すでに支給している企業はそう簡単にやめるわけにはいきません。先ほどの統計でも、配偶者の家族手当を見直す予定があると答えた企業は5.9%しかありませんでした。単純に賃金カットにつながる制度変更には、激しい抵抗が予想されます。
そのため、一部の企業では配偶者手当を廃止する代わりに子供手当を上乗せするという動きがあります。
自動車大手のホンダは2015年11月の労使合意で、月額1万6,000円の配偶者手当を廃止し、一人あたり月4,800円だった子供手当を2万円にすることを決定しました。またトヨタは月1万9,500円の配偶者手当をなくし、子供手当を2万円に増額しました。
この2社の発表はニュースでも大きく取り上げられました。日本企業としては異例の措置ですが、今後の流れを占うヒントになると思います。
働き方を抑制するのは得策かどうか
配偶者控除が見直されても、企業の家族手当があるために仕事をひかえる女性は減らないというお話をしてきました。しかし、配偶者手当をもらうために仕事を減らすことは本当に「得」なのでしょうか?
今後、企業の配偶者手当はなくなっていく流れにあります。年間20万円を受け取るために仕事を抑制していても、ある日突然ごっそりなくなってしまうかもしれません。それならば、年20万円の穴埋めぐらい何ともないくらいの稼ぐスキルを身につけておいたほうが、将来的にも安心感があるように思います。
いちど、世帯主の家族手当がいくらで収入制限の条件がどうなっているのか調べてみてください。また、ざっとでいいので、配偶者控除でいったいいくら税金が節税できているのかも。

節税額の目安はこちらの『配偶者控除のまとめ』に書きました。
もし合計10万円分の節税や手当を得るために、収入が50万円上がるチャンスをふいにしているのなら、もったいないことだとは思いませんか?
配偶者控除も家族手当も、今後減ることはあっても増えることはないでしょう。保育園の待機児童問題や不公平な家事分担など、女性が働くには社会の仕組みが追いついていない面があります。しかし、もう「そっちの準備が整うまで待ってられない!」と私は思うのです。
控除や手当がなくなっても痛くも痒くもない、そんな家計を目指したいです。






