
こんにちは。白金ちなです。
生活が苦しくなった時、「もしも」の手段があれば安心できますよね。生活保護はまさにその位置づけ。でも、生活保護ってどうしてこうもイメージが悪いのでしょう?
世間体を気にして、要件を満たしている人でもなかなか相談に行こうとしないのだとか。せっかくのセーフティネットがこれではもったいないですよね。
不正受給などさまざまな課題はありますが、偏見を排してまず生活保護ってどんな制度か知ることから始めてみることにしました。
どんな状態なら申込んでもいい?実際いくらもらえる?いろんな制約があるってホント?など、気になる点をまとめてあります。
生活保護のいま
まずは生活保護が今どんな状態なのか見ていきましょう。
受給世帯は増加している
2017年5月の発表資料によると、生活保護受給世帯数は164万世帯、受給者数は214万人です。保護率は1.70%、100人に1.7人が受けている状態です。30人3クラスの学年に1人は生活保護者がいる計算になります。
グラフが示すように、受給世帯は1995年ごろから急速に増加しています。その原因は何でしょうか?

今も昔も生活保護の多くを占めるのは高齢者世帯と傷病者・障害者世帯です。この2つで全体の8割を占めます。受給世帯に占める高齢者世帯の割合は、2015年時点では全体の49.5%に及びます。生活保護の受給率の増加は、受給する高齢者の増加がそのまま反映されている形になっています。
高齢者の生活保護受給者が増えたのは、年金不足の高齢者が増えたためです。老後は年金に頼るのが一般的ですが、誰もがサラリーマンのような生活をしてきたわけではなく、日雇いや自営業といった働き方をしてきた人も多くいます。
年金保険料を滞納したり、最低限の国民年金(基礎年金)しか入っていなかった人は、老後に十分な年金を手にすることができず生活保護の対象になります。
母子世帯や傷病者・障害者世帯の割合にはそれほど変化がありませんが、ここ数年の「その他世帯」の増え方が気になります。その他世帯とは世帯主が高齢でも母子でも障害者でもない世帯を指します。たとえば、父子家庭や介護離職による生活困難な世帯です。
このように、生活保護費の増加は急速な高齢化の影響が大きいことが分かります。
生活保護をもらえる条件
生活保護は「経済的に」苦しくなった時の最終手段です。そのため、今の状況が金銭的に苦しくほかに手段がないことを証明する必要があります。受給のための要件は主に次の3つです。
①使える資産がない
十分な預貯金や売却可能な土地・資産がある場合はそれらを生活費に充てることが求められます。しかし、口座に1円でも入っていたらダメというわけではありません。ケースワーカーの判断にもよりますが、一般的にはひと月の生活費の半分が目安と言われています。地域や家族構成にもよるでしょうが、5~10万円と言ったところでしょうか。
②働くことができない
働ける状態でありながら働いていないため収入がない状態であれば、まずは仕事を探すことを求められます。しかし、病気やケガなどでどうしても働けない場合は生活保護の対象となります。病気には精神障害や身体障害が含まれるほか、小さい子供がいる母子家庭のため就労が難しい場合も認められます。最近では高齢で働けないうえに年金が十分にないケースが増えてきました。なお、生活保護を利用しながら求職活動をするのは問題ありません。
③助けてくれる家族・親戚がいない
厳密には条件ではなく努力義務なのですが、生活保護を受ける前に家族や親戚からの援助が得られないか確認しましょう、ということです。扶養義務者は親、子供、兄弟姉妹、子供など三親等内親族です。
ただしこれは強制ではありません。以前有名タレントの母親が生活保護を受けていることで問題になりましたが、違法だったわけではありません。もしこれが義務化されてしまうと、たとえばDVや虐待の家庭に育った子供が苦労して自立した生活を手に入れたのに、恨みのある親のために再び人生を台無しにされてしまいます。ただ、流れとしては義務化に傾いてきているのは気になります。
生活保護はいくらもらえるのか?
それでは、生活保護費の生々しい数字についてみていきましょう。
生活保護費の計算方法
生活保護費は、収入が最低生活費を下回る場合に差額が支給されます。働いていても最低限の生活を送るのに十分な収入がない場合は生活保護が受けられます。
最低限必要な生活費が15万円なのに、手当等の収入が5万円しかない場合は10万円が支給されます。
最低生活費は年齢や家族構成、住んでいる地域によって異なります。年齢は12~19歳の育ちざかりがいると最低生活費が高く見積もってもらえます。家族が多いほど必要な保護費が高くなる仕組みです。また、障害者がいる家庭や母子家庭では加算があります。
住んでいる地域で最低生活費が変わるのは、家賃相場や物価に差があるからなんですね。生活保護制度では全国の市町村を6つの「級地区分」に分類し、1級地1・2、2級地1・2、3級地1・2の順番に高くなっています。
生活保護費の支給金額の例
生活扶助と住宅扶助を足した生活保護費がいくらになるのか、3つのケースで試算してみました。
世帯 | 1級地1 (東京23区、横浜市、名古屋市、大阪市など) | 2級地1 (あきる野市、宇都宮市、川越市、奈良市など) | 3級地1 (弘前市、石巻市、銚子市、西多摩郡、名護市など) |
60代ひとり世帯 | 13万3,490円 | 10万3,110円 | 9万9,310円 |
40代夫婦、小学生 | 23万5,310円 | 19万1,800円 | 17万9,290円 |
母子家庭、3歳、5歳 | 25万5,700円 | 21万0,920円 | 20万1,430円 |
たとえば東京23区内の60代ひとり暮らしの人には13万3,490円支給されます。このうち5万3,700円は住宅扶助ですので、生活費に使えるのは7万9,790です。3人家族になると20万円を超えてくるので「おお!」と思ったものの、家族が増えるほど支出も増えるので微妙です。母子加算のプラス2万円はあるに越したことはないでしょうが、シングルで2人の子どもを育てるのに十分と言えるかどうか…。
意外ともらえるんだなぁって思った反面、「働かずに生活保護もらってウハウハ」っていわれているほどウハウハではないなぁとも思います。
生活保護費の内訳
生活保護費はさまざまな種類の扶助の合計金額です。扶助は使い道ごとに種類分けされています。内訳は以下のようになっています。
- 生活扶助・・・食費・被服費・光熱費等日常生活に必要な費用(特定の世帯には加算)
- 住宅扶助・・・アパート等賃貸住宅の家賃(定められた範囲内の実費)
- 教育扶助・・・義務教育を受けるために必要な学用品費
- 医療扶助・・・医療サービスの費用(費用は直接医療機関へ支払)
- 介護扶助・・・介護サービスの費用(費用は介護事業者へ支払)
- 出産扶助・・・出産費用(定められた範囲内の実費)
- 生業扶助・・・就労に必要な技能の修得等にかかる費用(定められた範囲内の実費)
- 葬祭扶助・・・葬祭費用(定められた範囲内の実費)
住宅、教育(教材・給食・交通費)、出産、生業、葬祭は上限のある実費、介護と医療は現物給付、生活費と教育費(基準+学習支援費)はそれぞれ基準に基づいて算出された一定額となっています。実費と現物給付は自身の裁量で使うことはできません。支払われている生活保護費のうち、割合が多いのはどれでしょうか?

メインは生活費の援助である生活扶助ですが、住宅扶助や医療扶助の比率も高くなっています。
特に医療扶助は高齢受給者の増加にともない年々支給額が増えています。
住宅扶助ですが、持ち家の場合はもらえません。生活保護で持ち家と思われるかもしれませんが、売るよりも住んだほうが合理的と判断された場合はそのまま住み続けることができます。持ち家がない場合は家賃の実費が支給されます。
生活保護費以外のメリット
生活保護世帯に該当すると、以下の費用は免除または減免されます。
- 住民税や所得税免除
- 年金保険料の免除
- 国民健康保険料
- 介護保険料
- 公立保育園保育料
- NHK受信料
- 賃貸住宅の更新料支給
- 水道料金の基本料金(都市部の一部地域)
- 住民票や戸籍謄本、住基カードの発行手数料が無料
水道料金については自治体の判断ですので、免除されるところとされないところがあります。この他、公営住宅に入居しやすいといったメリットもあるようです。
生活保護によるさまざまな制約
生活保護を受けると生活上さまざまな義務や制約を負います。
車が持てない
自動車は資産に該当するので、原則としては売却の必要があります。しかし公共交通機関の乏しい地域に住んでいる場合や、自営業で事業のためにはどうしても車が必要な場合、身体障害者通院や通勤のために車以外の移動手段がない場合は例外的に認められます。
貯金ができない(目的による)
生活費の扶助を受けながらあまりにも大きな貯金があると、資産とみなされて生活保護費減額や受給停止の対象になる可能性があります。ただし子供の進学費用や将来のお墓のためといった理由のはっきりした貯蓄であれば認められます。2004年の最高裁判決では生活保護世帯の子どもの高校進学のための資産形成が認められ、2013年には大学進学のための貯金も容認されました。金額については生活費の6ヵ月分が目安とされていますが明確な基準はなく、現場の判断に委ねることが多いようです。
生活への干渉
生活保護を受けている人の義務として、「収入の報告」があります。保護費以外にお金が入ったならば収入申告が必要です。収入を正しく申告しないと不正受給にカウントされます。子供のアルバイト代や親戚からの支援金も収入に含まれます。また、受給中はひと月または数カ月に1回ケースワーカーの家庭訪問があります。資産や収入に変化はないか、保護費の使い方に問題はないかチェックし、病気や生活面での相談も可能です。不正受給の発見や見守りに役立ちますが、精神的にプレッシャーを感じる人もいるようです。
生活保護の不正受給率について
最後に、ずっと気になっていたこのテーマ。生活保護と言えば不正受給、不正受給と言えば生活保護と言われる生活保護ですが、そんなにも生活保護は酷い状態なのでしょうか?
不正受給率は0.45%
厚生労働省の調査によると、保護費の総額3兆7,786億円のうち不正受給が認められたのは169億9,408万円、比率にして0.45%です。理由のほとんどは「稼働収入の無申告・過少申告」で、10万円以下の少額なもの。子供が親に内緒でアルバイトしていた、親戚からお小遣い程度にお金をもらっただけなので収入とは思わなかったなど、ささいなものも含まれます。もちろん良くないことですが、99.55%は適正に支払われているなら、不正がはびこっているとはいえない状態です。
外国人が生活保護を独占している?
先ほども言いましたが、生活保護の主な受給者は年金の足りない高齢者であり、ほとんどが日本人です。次に障害者、家庭の事情で働けるのに働けないその他世帯が続きます。ネットで言われるような在日外国人が大挙して生活保護に群がっている様子はありません。
日本では、永住または定住の在留資格を持つ外国人は生活保護の対象になります。フランスやイギリスでも似たような制度があります。
日本人よりも保護世帯の割合が多い(日本は1.7%、外国人は約3%)ことが問題視されていますが、日本で外国人が仕事を見つける難しさを考えると無理もないことだと思います。
最低生活費に満たない世帯の8割が保護を受けず
生活保護=不正受給といったイメージが定着すると、生活が困難なレベルにまで困窮しているのに支援を受けにくい空気が蔓延してしまいます。ある調査では、最低生活費を下回る収入しかない世帯のうち生活保護を受けているのは20%しかないという結果が出ています。これは行政の水際作戦だけのせいとはいえないでしょう。生活保護は、むしろ必要な人に届いていないことが問題なのです。
結論:いつか頼ることになるかも知れない自分のために

生活保護に多くの問題点があるのは事実です。先ほどの不正受給はもちろん、水際作戦による捕捉率の低さ、ケースワーカーの不足、いちど陥ったらなかなか抜け出せないなど問題は根深いものがあります。
でも、すべてが美しく機能するものでないと、存在する意味はないのでしょうか?財政も厳しいことですし、廃止してしまいましょうか。生活保護をなくしても国家予算100兆円のうち3兆円ほどの節約にしかなりませんが。
実際に使うか使わないかにかかわらず、「最後の砦」があるのとないのとでは、同じ暮らしをしていても全然違う気がします。
私自身に生活保護が必要になるような事態は、何としても避けるよう努力したい。でも、いざどうしようもなくなったら、頼れるものが欲しい。そのために今ほんの少しの負担をすることは、将来の安心につながると思うのです。