
こんにちは。白金ちなです。
学生時代は地方在住、社会人になってからはフレックス制だったため、満員電車にはあまり乗らずに生きてきました。距離感、だいじ。
2017年5月、痴漢の疑いをかけられた男性が、線路内に飛び降り電車に轢かれて亡くなった事件を受け、「痴漢冤罪保険」の申し込みが10倍になったというニュースがあります。毎日満員電車を利用する男性にとっては、痴漢冤罪は身近なリスクになりつつあるようです。
最近は世間で話題になったピンポイントなリスクに対応したミニ保険が増えているようで、「痴漢冤罪保険」もその一つです。他には「SNS炎上保険」などがあります。
でも、痴漢冤罪保険って本当に冤罪から守ってくれるんでしょうか?入ったはいいけど全然助けてくれないとかイヤですよね。くわしい補償内容や費用について調べてみました。
このページの目次
痴漢を疑われたらどうすればいい?
まったく身に覚えのない痴漢の疑いをかけられたら、まずどうすべきなのでしょうか?
映画「それでもボクはやってない」(周防正行監督、2007年)の主人公は、自分はやっていないことは明白なのだから、話せばわかるだろうと駅事務所に行ったところ、そのまま警察に連行されて長期間勾留、裁判にまで持ち込まれてしまいます。その間家族はボロボロになり、仕事も失ってしまいます。
そのため一時期は「捕まらないように逃げる」とアドバイスする専門家も多くいました。しかし逃亡は非常に危険な方法です。逃亡の際誰かにぶつかる・手を振り払うなどしてケガをさせたら傷害罪になりますし、線路に逃げると事故に遭う可能性もあります。最近はどこにでも防犯カメラがありますから、逃げ切れる確率はあまり高くありません。
そこで最近では冤罪に巻き込まれたらすぐに「弁護士に相談する」という方法が推奨されています。その場で弁護士に電話をかけ、どうすべきかを相談します。駅員室について行ってはいけない、逃亡の意思がないこと伝えるなど、具体的なアドバイスをもらえれば、冷静に対処して逮捕をまぬがれるかも知れません。
しかし、とっさに知り合いの弁護士にすぐ連絡がつけられる人はどのくらいいるでしょうか?その問題をクリアするために作られたのが「弁護士に無料ヘルプコールができる痴漢冤罪保険」です。
月額590円の痴漢冤罪保険とは
痴漢冤罪保険を扱っているのはジャパン少額短期保険株式会社です。話題になっているわりには1社しか取り扱いがありません。正式な名称と補償内容はこちらです。
| 保険名 | 保険料 | 補償内容 | 利用者特典 |
| 痴漢冤罪ヘルプコール付き弁護士費用保険 「男を守る弁護士保険・女を守る弁護士保険」 | 月額590円 (年払6,400円) | ・痴漢冤罪の弁護士費用(最大300万円) ・個人賠償責任保険金 など | 痴漢冤罪ヘルプコール (無料) |
特徴的なのが利用者特典の「痴漢冤罪ヘルプコール」でしょう。携帯・スマホの簡単な操作で複数の弁護士に同時にアクセスできる機能です。使い方はこうです。
痴漢冤罪ヘルプコールの使い方
↓
②いざという時に利用画面のボタンを押す
↓
③登録弁護士にメールが一斉送信
↓
④対応可能な弁護士から返信
↓
⑤メールに記載されている番号に電話、直接アドバイス

場合によっては電話を替わってもらってもらい駅員や警察に話をつけてもらえることもあります。疑われた人は弁護士に相談する権利がありますから、たとえ警察でも電話を切らせることはできません。
なぜこのようなサービスが必要かというと、こういった事件は「初動がものを言う」からです。さきほども述べたように「おとなしくついていく」「逃げる」といった間違った対応を取ってしまうと、たとえ冤罪でも自分に不利な結果をまねいてしまいます。
だれでもいきなり犯罪者の疑いをかけられると冷静ではいられませんから、どのような行動をとるべきかその場で相談できる専門家がいることは強みです。
イメージとしては、事故を起こした時の自動車保険のロードサービスのようなものでしょうか。
ヘルプコール以外で弁護士を呼ぶ方法は?
保険のヘルプコール以外ですぐに弁護士を呼ぶ方法はないわけではありません。
- もともと知っている弁護士に依頼
- 各都道府県の弁護士会の連絡
- ネットで「痴漢 弁護士 (地名)」と検索
もともと連絡の取りやすい弁護士を知っている人にはヘルプコールは不要です。また、各地域には弁護士会が無料の相談センターを設けていますから、そこに電話するのも手です。インターネットで近くに刑事事件に強い弁護士事務所がないか調べてみるのも良いでしょう。
しかし駅や車内でいきなり痴漢扱いされて、落ち着いて電話番号を検索している余裕はないかも知れません。正義感あふれる屈強な男性に取り押さえられてそれどころじゃなくなる可能性も。ヘルプコールを登録しておけば、2タップほどで複数の弁護士に同時にアクセスできます。実際、大宮駅で痴漢に間違われた利用者がヘルプコールで通報後、2人の弁護士から連絡があったことで逮捕されずに済んだ事例もあるといいます。
補償してくれる弁護士費用の内容って?
商品概要には「最大300万円までの弁護士費用を補償」とありますが、痴漢冤罪事件は初動が肝心です。ヘルプコールを使えば、逮捕や勾留を免れるかもしれません。どういうことか、みていきましょう。
48時間以内の弁護士費用を補償
一般的な保険というのは、事故があったときにお金がもらえるだけですが、ジャパン少額短期保険の痴漢冤罪保険では、冤罪事件発生後すぐに弁護士が現場へ駆け付けて、逮捕や勾留されないように一生懸命弁護活動を行ってくれるのが特徴ですね。このヘルプコールサービスは事件発生後48時間ついています。
48時間というのは、勾留が決まるかどうかがだいたいそのくらいで決まるからです。警察は、逮捕後48時間以内に被疑者を検察に送検します。その後検察は24時間以内に被疑者を勾留するかどうかを決めます。勾留は通常10日、最大で20日間可能なので、痴漢で捕まってから最大23日間社会から隔離されることになります。そうなるとたとえ無罪を勝ち取ったとしても私生活への影響はおそろしいことになります。つまり、痴漢事件は、実際にやっていようがいまいが、勾留請求を却下させて身柄拘束を防ぐのが何よりも重要なのです。

「当番弁護士」がいれば不要?
タイムリミットは72時間ですが、逮捕後翌日に送検、その翌日には勾留請求ということもあるので、早めに48時間という制限を設定したのではないかと思います。その間に不利な供述やふるまいをしないよう、弁護士からのアドバイスがあればとても心強いですよね。
痴漢冤罪保険を使えば、弁護士費用は無料になります。それは素晴らしい!と思ったのですが、調べていくうちに「あれ?これって必要なくない?」という思うように。なぜなら、被疑者が警察や裁判所を通じて弁護士が呼べるしくみがあるからです。
「当番弁護士」といって、連絡から遅くとも2日以内に逮捕された人の所にかけつけて法律的なアドバイスをしてくれる制度です。当番弁護士は1事件1回無料です。したがって保険でカバーする必要はありません。たしかに保険を使えば何回でも弁護士費用は無料ですが、48時間以内に2回も3回も弁護士が接見に来るとは考えにくいですよね。じゃあやっぱりあまり意味がないのでは、と思ってしまうのですが
有罪の場合も補償されない
長期間無断欠勤することや社会的信用を失うことによって、失職してしまう可能性もあります。しかしその間の生活費に保険金は出ません。失職しないまでも、休んでいる間の給与保障もありません。あと、当たり前ですが冤罪ではなく有罪と認められた場合も補償の対象とはなりません。やってないけど示談した、やってないけど裁判で有罪となった場合も同じです。
つまり、痴漢冤罪が発生した時に、この保険でやってもらえるのは以下の「〇」のところだけです。
| 弁護士への一斉連絡メール送信 | 〇 |
| 返信があった弁護士と電話で無料相談 | 〇 |
| 逮捕後48時間以内の弁護士費用の補てん | 〇 |
| 勾留後の弁護士費用の補償 | ◯ |
| 被害者への示談金の補償 | × |
| 裁判中の弁護士への着手金・成功報酬の補償 | ◯ |
| 休職・失職中の生活保障 | × |
| 社会的信用回復のために費用の補償 | × |
| 示談・有罪の場合の48時間以内の弁護士費用 | × |
痴漢冤罪は個人賠償保険で補えないの?
ジャパン少額短期保険株式会社の「痴漢冤罪ヘルプコール付き弁護士費用保険」は、もともとは個人賠償保険です。個人賠償保険は、日常生活において偶然の(わざとじゃない)事故で他人の体や財産に損害を与える加害者になってしまった場合、賠償金を補償してもらえる保険です。たとえば自転車事故、水漏れ等の階下の住宅の破損などです。
では、痴漢の加害者扱いされた場合も使えるのでは?と思ったのですが、痴漢の場合は冤罪を含めて個人賠償保険では補償してもらえません。「偶然の事故」ではないからです(冤罪はある意味偶然の事故ですが…)。この保険に加入している人が自転車事故を起こした場合、賠償金を補償してもらえますが、痴漢で捕まった時の示談金や裁判費用には使えません。
ホームページには弁護士費用等保険金最高300万円や法律相談費用保険金最高10万円といった記載がありますが、2018年7月12日より、痴漢冤罪事件に巻き込まれた場合も、弁護士費用等保険金最高300万円が使えるようになったみたいです。まとめると以下のようになります。
| 保険の種類 | 保険金額 | 内容 |
| 弁護士費用等保険金 | 最高300万円 | ・痴漢冤罪事件に巻き込まれた時 ・被害に遭った時 |
| 法律相談費用保険金 | 最高10万円 | 被害に遭った時だけ |
| 個人賠償責任保険金 | 最高1,000万円 | 加害者になった時も使えるが痴漢冤罪は対象外。 しかも補償額が低め(一般的には1億円が多い) |
「痴漢冤罪保険」と銘打ったすぐ下にこのような表を載せているのでまぎらわしいのですが、個人賠償責任保険金は痴漢冤罪保険とは全く関係のない機能です。まちがっても痴漢の示談金に1,000万円まで出してもらえることはないので、誤解のないように気を付けてください。10倍になったという加入者のうち、きちんと理解している人がどのくらいいるのか、他人ごとながら心配です。
まとめ:痴漢冤罪の初動でヘタなことをしないための保険

2018年7月までは、痴漢冤罪保険はどちらかというと無料ヘルプコールがメインで、弁護士費用は初動のものに限られていましたが、少し補償が強化されました。
いざという時に複数の弁護士にアクセスできて、勾留されるかどうかが決まる最初の48時間で不利になるような言動をしないよう無料で相談できることが最大のメリットです。
さらに、痴漢以外の日常生活での個人賠償保険や、被害に遭った時の弁護士費用・法律相談費用も込みで月額590円なら高くはないかもしれません。
くれぐれも、痴漢冤罪保険に加入したからといって、満員電車では油断せずに、なるべく女性の背後に立たないなどを心がけましょう。
必要最小限に入るべき保険は?






