白金ちな


こんにちは白金ちなです。

お掃除ロボットが欲しいです。

主婦または主夫の方は日々痛感されていると思いますが、家庭内における労働には賃金が発生しません。つまりボランティア、無償労働です。

人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』では、津崎平匡(星野源)が森山みくり(新垣結衣)に住み込みの家事代行を頼む際に提示した月収は19万4000円、1日7時間労働で年収304.1万円でした。

これを聞いて、「うらやましい!!」と思った主婦の方は多いのではないでしょうか。どう考えたってこんなにもらっていません。生活費の対価だと考えても、主婦1人にこんなにかかりません。しかもドラマではこの数字は生活費を差し引いた金額です。

『主婦の働き』って、お金に換算するといくらになるのでしょうか?

実際にもらえるかどうかはさておき、家事の価値を数字で確認してみたいとの思いから、家事労働を金銭的価値に置き換える方法を調べてみました。

この手の話をすると必ず「そんなに高いはずがない!」と「私はこんなにも頑張っている!」で泥仕合が始まるのですが、ここでは泥を投げるのはやめてください(笑)。どんな計算方法があるのか知るだけでも楽しいですよ。

なお、本文中の「主婦」は「主夫」の方も含めています。できればご夫婦で共有していただきたいです。

主婦の働きをお金に換算してみよう!

人々は多くの時間を無償労働に充てているにもかかわらず、市場を介していないためお金に換算することができず、他の経済活動と価値を比較することができません。そのためつい「価値がないもの・存在しないもの」とみなされがちです。しかし、私たちの生活は、家事や育児含め誰かの無償労働なしには成り立ちません。

総務省の「社会生活基本調査」を見ても、人は意外とお金にならない行動を毎日していることが分かります。

1日の行動の種類別平均時間(夫)

1日の行動の種類別平均時間(妻)

睡眠を除く1日の行動の種類別平均時間(末子が5歳以下の夫・妻)



そこで、無償労働を金銭的価値に置き換える計算方法が考案され、欧米ではさかんにそのような統計が発表されています。日本でも内閣府が5年おきに「家事活動等の評価について」という報告書を作成されているので、参考にしてみましょう。

家事労働を貨幣評価する方法3つ

家事などの無償労働をお金に換算する方法はいくつかあります。代表的なものを3つ選んでみました。

家事労働の時間分を外で働いたとして評価する方法

仮に家事に充てていた時間を外での労働に置き換えたとしたら、得られた報酬はいくらか、という視点で評価する方法を、「機会費用法(Opportunity Cost method:OC 法)」といいます。あ、名前は無理して覚えなくていいです。

2011年
男性女性
15〜19歳1,017円993円
20〜24歳1,202円1,142円
25〜29歳1,428円1,303円
30〜34歳1,663円1,430円
35〜39歳1,916円1,518円
40〜44歳2,204円1,559円
45〜49歳2,462円1,544円
50〜54歳2,502円1,536円
55〜59歳2,340円1,459円
60〜64歳1,685円1,251円
65歳以上1,533円1,200円

得られる報酬は平均賃金を基準にします。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、男女別・年齢別の一人当たり時間給は表のようになっています。


たとえば35歳女性が1日に家事に充てていた時間を、外で働いて給与を得たとしたらいくらになるのか計算してみましょう。先ほどの「1日の行動の種類別平均時間」によると女性の家事労働の時間は7時間とありますから、それを採用します。また、週休は1日と想定します。

1,518円 × 7時間 × 25日 = 26万5,650円

月収は約26万円、年収にすると320万円ほどです。


これだけの機会損失を負っているという意味で、この方の家事労働の金銭的価値は上記のようになります。もちろん労働時間は人によってそれぞれですし、単価も一律とは限りません。もともと仕事をされていた方なら、過去の自身の時給から換算してみてもいいでしょう。

ちなみに、『逃げ恥』で津崎さんが採用した計算方法もOC法です。年齢や労働時間によって結果は変わってきますが、単価・労働時間など最も個人の事情を反映した算出方法といえるでしょう。いちど試してみてください。

似たような専門職の賃金で評価する方法

無償労働の内容を炊事・清掃・保育などに分け、似ている専門職に従事する人の賃金で評価する方法を「代替費用法スペシャリストアプローチ(Replacement Cost method, Specialist approach:RC-S 法)」といいます。名前は覚えなくてもいいです。

専門職の時給は先ほどの「賃金構造基本統計調査」の職種別1人当たり時間給を参考にします。

活動種類対応職種2011年
家事炊事調理師、調理師見習い平均1,163円
掃除ビル清掃員992円
洗濯洗濯工1,015円
縫物・編物洋裁工(洋服工)、ミシン縫製工平均858円
家庭雑事用務員1,141円
介護・看護看護補助者、ホームヘルパー平均1,193円
育児保育士1,238円
買物用務員1,141円
社会活動医療、社会保険・社会福祉、教育等加重平均1,816円

食事の用意やお皿洗いなどの炊事を調理師・調理師見習平均の時給に、掃除はビル清掃員の時給に、といった具合に置き換えていきます。

先ほどと同じように1日7時間家事に充てたとして、たとえば、1日に炊事3時間、掃除2時間、洗濯・買い物1時間で計7時間、同時進行で育児を7時間こなしたと想定して月収を計算してみましょう。時給は対応職種のものを参照します。

炊事: 1,163円 × 3時間 = 3,489円
掃除:  992円 × 2時間 = 1,984円
洗濯: 1,015円 × 1時間 = 1,015円
育児: 1,238円 × 7時間 = 8,666円
買物: 1,141円 × 1時間 = 1,141円
          (1日合計)16,295円

日給1万6,295円で週休1日働いた場合、月収にすると40万7,375円になります。年収では490万円程度です。

同じ評価方法でアメリカの調査会社salary.comがおこなった最新の調査によると、月収100万円、年収1,200万円という結果が出ています。これはプロのコックや運転手を雇った時の時給を採用しているのでさすがにやりすぎ感がありますが、しかし世の中にはプロ顔負けのハイスペック主婦が実際に存在しますから、一概に非現実的とはいえません。

家事代行の賃金で評価する方法

最後に、「代替費用法ジェネラリストアプローチ(Replacement Cost method, Generalist approach:RC-G 法)」について説明します。これは家事代行サービスを専門とする人の賃金から評価する方法です。

2001年
965円
2006年
973円
2011年
1,029円

家政婦さんの平均賃金は正式なデータがないようなので、社団法人日本臨床看護家政婦協会が2006年に作成した家事援助サービスの賃金実態調査をもとに、厚生労働省が賃金の伸び率から算出した最新データを使います。それによると、家事代行サービス専門職の人の時給は1,029円です。

この時給を、1日7時間の家事労働時間に当てはめます。月25日労働と仮定すると、

1,029円 × 7時間 × 25日= 18万75円


月収は18万円、年収が216万円になります。しかし子供がいると別途ベビーシッターが必要になります。ベビーシッターは正式な統計がないので、時給を1,000円と仮定すると、

1,000円 × 7時間 × 25日 = 17万5,000円

家事代行と合計すると、35万5,075円になります。


家事代行スタッフの賃金からではなく、家事代行サービスを受けた時に支払う対価を採用した場合はどうでしょうか?1日7時間25日間利用すると…

3,300円 ×  7時間 × 25日= 57万7,500円 です。

もし家事の引き受け手がいなくなって外注するとなると、頼んだ時にかかる数字の方が現実味を帯びてきます。現在の家庭内の家事労働の一覧を作って、すべて「ベアーズ」や「カジー」に委託した場合いったいいくらになるのか、考えるだけでも気が遠くなりますね。


このように、無償労働である家事労働を金銭的価値に置き換える方法は3つをご紹介しました。主婦の年収の試算が無意味とされるのは、平均を使ってひとくくりに計算されるからですが、計算方法を知っていればそれぞれの生活パターンに合わせて計算することができます。

  • 乳幼児がいるため1日20時間労働のママ主婦
  • 家事、育児、介護、家業の手伝いまでこなすパラレル主婦
  • 外で働けば高給が期待されるキャリア主婦
  • どれもプロ級の腕前のハイスペック主婦

と、ご事情はそれぞれでしょうから、上記データを参考にいちどオリジナルの試算をしてみてください。電卓かエクセルがあれば簡単です。

なぜわざわざお金に換算する必要があるのか

このような数字が発表されるたびに、「なら外で働いて稼いで来ればいい」「無償労働は無償労働であり、収入とは違う」「お金に代えられないものをお金に換算すること自体無意味」という声が上がります。

その通りです。家事労働に金銭的価値はありません。それは、やっている人が日々痛いほど感じていることです。推計データをまとめている人達も、そんなことは先刻承知です。では、何のためにこのような試みが世界中でおこなわれているのでしょうか?

家事ハラスメントの本当の意味

以前、「家事ハラスメント」という言葉が話題になりました。家事を手伝う夫に妻がダメ出しをするという意味で使われていましたが、本来の定義とは異なります。

白金ちな


目に見えにくくお金に換算できない労働は、いつの間にか「存在しないもの」とみなされてしまいます。そのため家事労働の苦労や意義は無視され、家事育児しかしていない人は「何もしていない人」とみなされるようになりました。

そのような境遇に不満があったとしても、無償労働なしに家庭生活は成り立たず、特に子供がいると女性は働きにくい社会環境になっているため、「だったら外で働く」とはそう簡単にはいきません。

そのため、家事に従事する人は経済力や発言力が奪われるだけでなく、時には蔑視の対象になります。これが、本当の「家事ハラスメント」です。

無償労働を「見える化」する

本来であれば、わざわざお金に換算しなくても相手の苦労や存在意義を尊重し、有償・無償関係なくお互いをねぎらうべきですが、それができない人が多いために、最も分かりやすい指標である貨幣に価値を置き換える作業がなされているのです。主婦の収入を試算するのは、目に見えにくい家事労働を「見える化」するためのものなのです。

したがって、「主婦の年収なんか計算しても意味ないよね」という人にこそ、このような試算が必要なのです。

専業主婦でも休業損害賠償を受け取れる

主婦の仕事に金銭的価値はないという話をしてきましたが、時には社会的にも主婦業の賃金計算が必要とされるシチュエーションがあります。それは、交通事故などによる「休業損害」を請求するケースです。

事故によるケガのために仕事ができなくなった場合、休んだ間に得られるはずだった給料を損害賠償請求することができます。これは収入のない専業主婦でも支払われます。算出方法は平均賃金を基準とするOC法や、家事代行を雇った場合はその費用などさまざまですが、とにかく専業主婦でも働けなくなると補償が受けられます。

専業主婦は給与を得ていないから事故で負傷しても休業補償はない、というのは誤解です。

まとめ:お金で計れないことへの対価とは

白金ちな



無償労働を金銭的価値に置き換える方法についてご紹介してきました。いずれかの方法を使えば、ご自身の、またはパートナーの無償労働の金銭的価値が分かります。

しかし、家事労働に500万円の価値があると分かったとしても、年収500万円の夫から妻が500万円の報酬をもらったら、家計がおそろしいことになります。主婦の収入の試算も、そのような趣旨で作られているわけではありません。

無償労働にお金は払わなくていい。では何を?

有償労働も、無償労働も、等しく評価されるべきです。しかし、無償労働には有償労働のような金銭的報酬や他者評価がありません。

無償労働を負ってくれているあなたのパートナーに、あなたは対価として何を与えることができるでしょうか?たとえば、愛、とか?(〃▽〃)ポッ

主婦の収入の試算は、泥の投げ合いではなく、感謝の交換に使っていただきたいです。