
こんにちは。白金ちなです。2億円ほしいです。
橘玲氏著『専業主婦は2億円損をする』という本が炎上したそうですね。
本書は専業主婦を一方的に見下す内容ではありませんが、「割に合わないからやめておけ」と、これから生き方を選択する女子高生~20代の女性に向けて書かれたものです。しかし、専業主婦を選択した、もしくは選択せざるを得なかった人たちからの反発が大きく、話題になりました。
著者は経済的な自由が幸福には不可欠と考える人で、私も同じ意見です。しかし、金銭的なリスクを負ってでも他の何かを選択した人に、まるで彼女たちが何も分かってないかのようなメッセージを送るのは良くないかなと思います。
それにしても2億円とは聞き捨てなりません。子育てが落ち着いてから再就職すれば挽回できないのでしょうか?働き方が生涯収入に与える影響について、徹底検証しました。
女性の働き方11のケース
女性の働き方は多様です。ずっと働き続ける人もいれば、結婚して退職する人もいます。退職後に再就職する人もいれば、ずっと専業主婦という人も。
大学進学率が半数を超え、とりあえず1回は就職する人が多数を占めるようになったので、今回は大卒女性の生涯収入についてみていきます(ニッセイ基礎研究所にいいデータがありました)。
大卒女性の卒業後の働き方のパターンは、大きく分けて次の11に分けることができます。子供がいる場合は第2子までを想定しています。
【新卒時正社員で就職】
A-1. フルタイム(出産なし)
大卒後フルタイム正社員→出産等なしで就業継続→60歳で退職
A-2. フルタイム(産休・育休あり)
大卒後フルタイム正社員→2人の子を出産→それぞれ1年の育休→フルタイムで復職→60歳で退職
A-3. 下の子が3歳まで時短
大卒後フルタイム正社員→2人の子を出産→それぞれ1年の育休→第2子が3歳まで時短勤務→60歳で退職
A-4. 下の子が小学校まで時短
大卒後フルタイム正社員→2人の子を出産→それぞれ1年の育休→第2子が小学校入学まで時短勤務→60歳で退職
A-5. 退職後非正規
大卒後フルタイム正社員→第1子出産時に退職→第2子小学校入学時にフルタイム非正規として再就職→60歳で退職
A-6. 退職後パート
大卒後フルタイム正社員→第1子出産時に退職→第2子小学校入学時にパートとして再就職→60歳で退職
A-7. 退職後専業主婦
大卒後フルタイム正社員→第1子出産時に退職→ずっと専業主婦
【新卒時非正規雇用で就職】
B-1. 非正規(出産なし)
大卒後フルタイム非正社雇用→出産等なしで就業継続→60歳で退職
B-2. 非正規(産休・育休あり)
大卒後フルタイム非正社雇用→2人の子を出産→それぞれ1年の育休→フルタイムで復職→60歳で退職
B-3. 退職後パート
大卒後フルタイム非正社雇用→第1子出産時に退職→第2子小学校入学時にパートとして再就職→60歳で退職
B-4. 退職後専業主婦
大卒後フルタイム非正社雇用→第1子出産時に退職→ずっと専業主婦

新卒時に正社員採用だった場合をA、非正規採用だった場合をBとしました。収入は賃金とボーナスを足したものです。賃金水準は厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が基となっています。
最初の働き方を続けるか、時短で働くか、いったん退職して再就職するか、専業主婦になるかで、生涯収入はどのように変わるのでしょうか。なかなか衝撃的な結果です。

自身がどのルートを選択したのか、もしくは想定しているのか、当てはめてみて下さい。もちろん収入額は人によって異なるので上の金額よりも多かったり少なかったりするでしょうが、時短や退職によってどのくらいの比率で所得が減るのかは参考になります。
上記は大卒女性の賃金動向から算出されているので、高卒の場合は全体的にもう少し低めです。
2億円損をするのは本当だった
結局、専業主婦は2億円損をするのは本当なのでしょうか?
正社員は2億円超の収入を逃し、非正規は生涯収入が半減
書籍には「女性が2億円も稼げるわけがない!」という反論があったようですが、特に高学歴・超優良企業限らなくても60歳まで正社員で働けばトータル2億円を稼ぐことは十分に可能です。
「男性と同じように」定年まで就労を続ければ2億5,000万円得られたものが、いったん退職してしまうと生涯収入は1億円に届くことはありません。大卒正社員女性が専業主婦になると2億円損をするというのは事実のようです。
非正規の場合もともとの想定収入が低いため損失額が2億円になることはありませんが、それでも専業主婦になるとのちにパートで働いたとしても生涯収入は半減、働かなければ4分の1です。
まず新卒で正規か非正規かで1億円の差
出産退職による収入減よりも驚いたのは、最初の就職が正社員か非正社員かによる賃金の格差です。新卒で正社員になれないまたはならなかった場合、ずっとフルタイムで働いたとしても生涯収入は正社員よりも1億円少なくなります。これは基本の給与水準が低いのに加え、非正規にはボーナスや各種手当がつかない、ついても少額であることが原因です。
はじめは非正規で慣らして後から正社員に登用する制度もありますが、実際にはそれほど多く採用されるわけではありません。非正規社員が正社員よりも仕事が楽である保証はなく、非正規は残業しなくてもいいなんてことはないのは皆さんご存知の通りです。
退職後非正規はずっと非正規より低収入
もうひとつ驚いたのが、一度キャリアが途切れることのダメージの大きさです。正社員で働きたかったけど家庭との両立が難しくていったん退職し、落ち着いてから非正規で再就職というのはよくあるパターンではないかと思います。しかし、途中から非正規になった人は、ずっと非正規の人よりも生涯収入は少ないという現実があります。
雇用の流動性が低い日本では新たに仕事を始めるハードルが高く、いったん退職してしまうと元が正社員だろうが高学歴だろうが関係なく賃金が下がってしまう構図なのです。
時短や育休の影響は意外と少ない
以外だったのは、育休を取ったり一定期間時短勤務を続けたりすることは、生涯収入にそれほど大きな影響はないということです。1年間の育休を2回に渡って取得しても生涯収入は10%ほど少なくなるだけです。もちろん小さくはありませんが、退職や非正規化による影響に比べるとかなりマシといえます。
第2子が小学校に入るまで時短を続けたとしても、億単位で損をすることはありません。ただ、たとえ時短でも正社員を続けるためには、理解のある職場と保育施設、親や配偶者の協力は欠かせません。そのような境遇を得られる人は、全体のどのくらいの割合でいるのでしょうか?
就業を継続できる人はどのくらいいる?
出産後にも仕事を続ける人がどのくらいの割合でいるのか調べてみました。


内閣府が発表した女性の就業継続に関する資料があります。それによると、2010年から14年までの間に、出産後就業を継続したのは出産前に働いていた人のうち53.1%、半分近くが出産を機に退職しています。
このご時世に驚くべきデータですが、これでもかなり良くなっています。30年前の1985年から89年では、そもそも出産前に働いている人は6割程度しかおらず、出産後にはそのうち60%が辞めています。
女性の活躍が重視されるようになってからずいぶん経ちますが、出産は相変わらず就業の妨げになる要素のままです。いったん退職すると生涯収入が激減するのは先ほどの調査のとおりなのに、なぜ辞めてしまう人がこれほどまでに多いのでしょうか。
なぜ就労継続を諦めてしまうのか
女性に意欲がないわけではありません。過半数の女性は出産後も働くことを希望しており、特に正社員の場合75.6%が仕事を続けたいと考えています。
あるリサーチ会社が妊娠や出産を機に退職した女性に退職の理由をアンケートしたところ、以下のような回答が得られました。

もっとも多いのが「家事育児に専念するため」、次に多いのは「仕事と育児の両立の難しさから」です。しかし、私はこの2つの回答の違いはあいまいだと思います。
家事育児のために自発的に辞めたと聞くと、まるで社会や企業に何の問題もないように感じられます。しかし保育所不足や長時間労働など今の日本の育児環境を考えると、女性が仕事を辞めて家庭に入る方が“合理的”な環境であるため、現実的な考え方の女性ほど自ら辞めてしまう可能性が高いと考えられます。それは、両立が難しいという理由とあまり変わらないのではないでしょうか。
もともと家庭を重視して専業主婦を希望している人ももちろんいるでしょうが、実際に専業主婦になる人はその数を大きく上回ります。自発的に辞める人の中には、積極的選択をした人と、次善の策として選択した人がいるのです。
子持ち女性が仕事を続けるために必要なもの
では、どんな要素が出産した女性の就労の妨げとなっているのでしょうか。
仕事を続けるために必要だったと思うこと

出産後も働きたいと思っていたのに断念せざるを得なかった人に、何があれば続けられたと思うかというアンケート調査の結果が上のグラフです。
1位が「保育園」、これは分かります。次に続くのが「職場に時短などの両立支援があれば」、「職場の理解があれば」、「休みがとりやすい職場だったら」、「残業がない職場だったら」、「職場までの通勤が」、「職場でマタハラがなければ」・・・職場、職場、職場の問題だらけで、日本の職場どれだけおそろしいのって感じです。
家に専業主婦がいる健康な壮年男性を想定した職場づくりの弊害が、今日の労働者不足と少子化の原因なのではという気がします。逆に考えると職場さえ改善すればすごくたくさんのことが一気に解決するのでは。働き方改革、進むといいのですが。
フリーランスは解決策になるか
『専業主婦は2億円損をする』の本の中でも、子持ち女性の日本における環境の厳しさにはふれています。その解決策が「フリーになる」や「海外に移住する」だったので、非現実的だと批判されました。しかし、ホントにそれくらいしか解決策がないのではとも思えるくらい状況は複雑で深刻です。
フリーランスはおそろしい職場から離れるという意味で大変有効です。起業とまでいかなくても、業務委託の形でのフリーランスも徐々に浸透しつつあり、少なくとも海外移住よりは現実的です。
しかし、十分な収入を得るという点ではまだまだ不安が残ります。フリーランスは年収200万円~400万円がもっとも多く、正社員なみの生涯収入をフリー1本で得るにはもう少し時間がかかりそうです。
結論:女性に「働け」というだけではどうにもならない

女性の就労が進まない理由が「女性のやる気」だったら、「専業主婦なんて損だから働け」とハッパをかけるのは正しい方法といえるでしょう。しかし実際には…
- 「保育所不足」
- 「おそろしい職場」
…が問題なのであって、それを女性にどうにかしろというのはあまりにも乱暴です。どうにかして欲しいのはこっちです。
仕事を辞めると2億円損するのは事実です。そしてそれは多分みんな知ってます。それでも選んだ人の判断をとやかくいうべきではないし、働きたかったのに断念した人に働けというのは筋違いです。みなさんはどうお考えになるでしょうか。






