白金ちな


携帯や家電は比較して選ぶのが当たり前なのに、ガスって選べないですよね。

都市ガスの場合、関東圏なら東京ガス、中部地方なら東邦ガス、関西地方なら大阪ガスと、特に疑問もなく大手都市ガス会社のガスを使っていると思います。あとはLPガス(プロパンガス)とか。いずれにしても、「どこから買うかを選ぶ」という経験をしたことがある人はあまりいないでしょう。

しかし、今年の4月から都市ガス小売り完全自由化されます。

自由化されれば、複数のガス会社から好きな事業者を選べるようになります。地域によっては今年に入ったあたりから、猛烈な売り込み合戦が始まっています。私もガス会社や通信会社からよく営業を受けました。

ガスが自由化されれば、今よりガス代は安くなるのでしょうか?ガス会社ってどうやって選べばよいのでしょうか?調べてみました。

ガス自由化とは

自由化の概要と範囲についてみていきましょう。

自由化されるのは「売る」部分だけ

ガスが私達一般家庭に届くまでには、「つくる」「送る」「売る」といった流れがありますが、今回自由化されるのは「売る」の部分です。ガス管は従来のものを使用するので、事業者が変わったからといってガスの質が低下したり止まりやすくなったりすることはありません。また、メーターや給湯器、コンロといった設備は従来のものを使用できるので、特に設置工事や設備投資も必要ありません。

自由化されるのは「売る」部分だけ

自由化されると安全面が心配になりますが、保安業務のうちガス漏れや震災時など緊急性の高いトラブルについてはこれまで通り大手ガス会社(東京ガスなど)が対応するので安心です。ちょっとした故障や調査、緊急時の連絡先の周知などは新たに契約した小売事業者が担当することになります。

自由化の対象は都市ガスと簡易ガス

今回自由化の対象となるのは、ガス導管を通じて各家庭にガスを供給する「都市ガス」と、団地やマンション向けにガスを供給する「簡易ガス」です。ガス管が敷設されていない地域ではガスボンベにガスを詰めた状態で配達されるLPガス(プロパンガス)が供給されていますが、LPガスはすでに自由化されているため、今回の対象ではありません。

ガス自由化の対象

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現在ガス管を通じてガスを使っている場合は、その設備を使って新しい業者が販売分野に参入してきます。利用者にしてみると、設備を変えることなく新しい料金プランや顧客サービスを使えるようになります。

一方、都市ガスや簡易ガスのガス管が敷設されていない地域は、自由化の影響はありません。ただ自由化によりガス管の工事はどんどん進んでいく方向に動くようです。

ガス自由化のメリット

ガス自由化のねらいはどこにあるのでしょうか?

競争により顧客サービスの水準が上がる

これまで、ガス会社は住んでいる地域で自動的に決まっており、こちらから主体的に選ぶことはできませんでした。しかし自由化により、どこの事業者からガスを買うか、消費者が選べるようになります。選択権が消費者側に移ると、事業者間で競争が生まれるため、消費者に有利な料金やサービスが増えることが期待されます。

料金メニューが増える

一般家庭におけるガス料金設定はどこも似たり寄ったりで、使用量によって差はつくことはあっても、事業者によって差が出ることはありません。これはガスの価格を国が管理してきたためで、急に高くなったり安くなったりすることがない一方で、割高になりやすい仕組みです。しかし自由化により料金に関する規制も撤廃されるので、今より安い料金になる可能性も十分にあります。また、セット割やポイント制度など料金メニューが多様化し、利用者の使い方にあった料金プランを選べるようになると思われます。

盛り上がっているの?自由化の現場の実際

独占状態だったガス業界に画期的な動きをもたらしそうな今回の改革ですが、現場のほうは盛り上がっているのでしょうか?

新規参入事業者はたった10社

2017年3月16日現在、新規にガス小売事業に名乗りを上げた事業者は29社です。そのうち一般家庭にガスの販売を行う事業者は10社のみ。あまり盛り上がっていないといわれる電力自由化においても新規参入企業は380社以上ありましたから、ガスのほうはかなり寂しい状況にあります。


<登録ガス小売事業者一覧(一般家庭向き)>

参入企業名業種参入地域
関西電力電力大阪ガス供給地域
東京電力エナジーパートナー電力東京ガス供給地域
中部電力電力東邦ガス供給地域
九州電力電力西部ガス供給地域
日本瓦斯(ニチガス)LPガス、都市ガス東京ガス他供給地域(関東)
東彩ガスLPガス、都市ガス東京ガス他供給地域(関東)
東日本ガスLPガス、都市ガス東京ガス他供給地域(関東)
新日本瓦斯LPガス、都市ガス東京ガス他供給地域(関東)
北日本ガスLPガス、都市ガス東京ガス他供給地域(関東)
朝日ガスエナジーLPガス、都市ガス三重県
資源エネルギー庁『登録ガス小売事業者一覧』より著者作成

原則としてどんな業種の企業でもガスの小売事業に参入することは出来るのですが、実際に名乗りを上げたのは従来のガス会社や大手電力会社ばかりです。理由はまず市場規模にあります。電力自由化の市場規模は7.5兆円といわれていますが、ガスの場合は2.5兆円にとどまります。都市ガスのシェアは50%程度しかなく、自由化の対象となる家庭が少ないのです。

また、ガスは電気に比べて参入障壁の高いことも原因です。ガスの原料である液化天然ガス(LNG)を輸入できる事業者は、LNG基地やLPガスタンクを持つガス会社や、発電所を持つ電力会社に限られます。自由化されたのが「売る」部分だけだとしても、売るもの(=ガス)がなければ何もできないのですが、売り手が電気・ガスといったライバル社しかなければ、新規参入企業にガスを売ってくれるところがありません。市場が小さく参入しにくい業態のまま自由化しても活性化することは難しく、今回の自由化は行政側の見切り発車の感が否めません。

通信会社は参入していないの?

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ところで、通信会社や携帯電話会社ではさかんにガス自由化の宣伝がされていますが、登録ガス小売事業者にそれらの名前がありません。実は、彼らは「小売事業者」ではなく「取次事業者」です。

インターネット接続業者や携帯電話会社は多くの顧客とのつながりを持っているため、ガス小売事業者から販売を委託されていることが多いのです。

ガス会社は顧客の多い通信会社に客集めを頼んで、通信会社は自社との長期契約を条件に料金の安いガス会社を紹介して顧客の囲い込みができる、という構図です。

激戦区は関西「ガスvs電力」

<ガス事業者切り替え申込件数(3月24日時点)>

地域申込件数
北海道
東北
関東3,284
中部・北陸15,634
近畿71,213
中国・四国
九州・沖縄2,272
全国92,403

4月から自由化スタートというのにイマイチ盛り上がりに欠けるガス自由化ですが、関西だけは違います。

電力自由化では電力会社がガス会社に顧客を奪われる現象が見られましたが、ガス自由化ではその逆が起こっています。

特に関西では大阪ガスと関西電力が値下げ競争でしのぎを削るなど、攻防が激しくなっています。近畿地方では自由化が始まる前の3月24日時点ですでに7万1,213件のガス会社の切り替え申し込みがあり、全地域でダントツのトップです。

なお、東京ガスと東京電力も競合していますが、東京電力のガス供給開始が7月からで両者とも料金プランを発表していないことから、消費者の動きも静かです。

引用・経済産業省資源エネルギー庁ガス小売全面自由化関連情報「スイッチング申込件数」

ガス切り替えの選択肢3つ

いまのガス会社を変えたいと思った場合は、どのような方法があるのでしょうか?

新規参入事業者に切り替え

新たに参入してきた事業者に完全に乗りかえる形です。本来の自由化の形といえますが、残念ながら現時点では乗りかえ先の数が非常に限られています。今後増えてくれば有力な選択肢の一つになります。

現在契約しているガス会社の契約内容見直し

ガス自由化を受けて、既存の大手ガス会社では新たな料金プランが続々と発表されています。新規参入事業者を意識しての値下げや、まだライバルは存在しないけど早いうちから顧客の囲い込みをしようとするねらいです。利用者からすると新たな契約の必要なく簡単な手続きでガス代が安くなる可能性がある方法です。

現在契約しているガス会社の取次事業者に切り替え

ガス会社は変えないけれど、契約先を取次事業者切り替える方法です。たとえば現在大阪ガスを使っているとすると、大阪ガスから販売を委託されているジェイコムに切り替えるというものです。既存ガス会社と直接契約するよりも割安になるケースがありますが、取次事業者と長期契約をすることが求められることが多くなっています。

比較サイト

電力比較サイト「エネチェンジ」のサイトでは、住んでいる地域のガス料金の比較ができます。郵便番号・契約中のガス会社・現在の契約プラン・ひと月のガス代を入力すると、該当する都市ガスのプランの一覧が表示されます。

ガス代を安くするポイント

自由化を良い機会として、ガス代を節約する方法がないか確認してみましょう。

電気とガスをセットにする

思い切って電気とガスを同時契約することで料金が安くなる「セット割」を検討してみてもいいかも知れません。セット割は電力会社・ガス会社どちらでも提供しています。光熱費が安くなる可能性があるほか、明細や請求の一元管理ができることがメリットです。また、電気とガスだけでなく、携帯電話やインターネット、ガソリンとのトリプルセット割にすることにより、さらにおトクになるケースがあります。

ただし、必ずしも安くなるわけではないことは覚えておきましょう。セット割は料金体系が複雑になるケースが多く、必ずいくら安くなると保証してくれるわけではありません。また、セット割の場合片方だけを解約したいと思ってもやりにくい、解約金が発生するなどのデメリットがあります。

省エネ給湯器を検討する

省エネ給湯器によりガス代を節約し、料金の割引を受けることができます。

省エネ給湯器とは「エネファーム」「エコウィル」「エコジョーズ」「エコキュート」などのことで、設備導入の際は国の補助金が受けられます。似たような名前で内容も難しいので敬遠されがちですが、自由化を機にチェックしてみてもいいでしょう。

東京ガスと大阪ガスの料金割引の中身はこのようになっています。

<東京ガス>
「エコジョーズ」・・・通年3%割引
「エコジョーズ」+「ガス温水床暖房」・・・冬期約5%割安
「エネファーム」+「ガス温水床暖房」+「ガス温水浴室暖房乾燥機」・・・冬期約18%割安

<大阪ガス>
「エコジョーズ」・・・通年5%割引
「エコジョーズ」+「ガス温水床暖房」+「ガスコンロ(2口以上)」・・・冬期約7%割安
「エネファーム」+「ガス温水床暖房」+「ガスコンロ(2口以上)」+「ガス温水浴室暖房乾燥機」…冬期約11%割安

ただし、補助金があるとはいえ省エネ給湯器は設備費が安くありませんから、導入には十分な検討が必要です。

お湯や暖房をあまり使わない家庭ではあまり節約効果はありません。室外機を設置するための場所も必要ですから、ある程度敷地に余裕のある家でないと難しいでしょう。

結論:あわてなくていいけれど今のうちにできること

ガス小売完全自由化は現在のところ事業者・利用者ともに様子見なところが多く、急いで決めなくてはいけない状態ではありません。もう少し新規参入者が増えてから動いてもよいでしょう。

白金ちな


ただ、現在のガス使用量や契約内容のチェックはしておいた方がよいでしょう。契約している料金プランや毎月のガス使用量が分かれば、切り替えのシミュレーションをする際に役に立ちます。シミュレーションは先ほどの比較サイトか、各電気・ガス事業者の公式ホームページでできます。

あと、ガス自由化に便乗した詐欺が横行しているので注意してください。「ガス自由化のためにガスコンロやメーターの交換が必要」といわれたら完全にアウトです。

有料の点検も通常は必要ありません。大手ガス会社を名乗り、個人情報を聞き出そうとするケースもあります。あやしいと感じたら消費者ホットライン(局番なしの188)に相談しましょう。